移住する国をどう選ぶか
「住みやすい国」を探すとき、実際の決め手になるのは在留資格の要件、年金と税、病院代、学校、住み始めたあとの届出です。タイとフィリピンの公式な条件を例に、国を比べるための項目と確かめる先を整理しました。
この記事の要点
- 住む国は好みではなく、その国の在留資格が自分の年齢と収入・資産で取れるか、そして条件を毎年保ち続けられるかで決まります。ここで落ちる国は、住み心地を考える前に候補から外れます。
- 長期滞在の制度は50歳に線を引いていることが多く、タイのロングステイビザもLTRの年金生活者の区分も50歳以上が対象です。50歳より前に移るなら、働く資格か、資産で満たす区分を探すことになります。
- タイのロングステイビザは80万バーツの預金か月65,000バーツの収入で、滞在は1年、就労は禁止と明記されています。LTRは5年+5年ですが、投資額も口座残高も保険も、有効期間を通じて維持が求められます。
- 日本の社会保障協定が発効しているのは24か国で、タイは入っていません。日本の公的医療保険の海外療養費も日本国内の治療費を基準に計算されるので、年金と病院代は自分で埋め方を決めることになります。
- 住み始めたあとの手間も国で変わります。タイでは90日ごとの住所の届出があり、LTRなら1年ごとの報告に緩和されます。子ども連れなら、日本人学校が世界に94校しかないことが先に効いてきます。
「住みやすい国」「移住しやすい国」で調べると、国名を並べた表がいくつも出てきます。ただ、同じ国が、ある人には住める国で、別の人には住めない国になります。分かれ目は好みではなく、その国の在留資格が自分の年齢と収入で取れるか、その条件を毎年保てるかという、公式に確かめられる事実です。このページは、国を比べるための項目と、それを確かめる公式の窓口を整理した「知るための」記事です。国に順位は付けません。
「住みやすい」を、確かめられる条件に置き換える
国を比べる前に、比べる項目を決めます。次の6つは、どれも各国の政府か日本の官庁が公式に出している事実で、自分で確かめ直せます。逆に言えば、この6つが埋まらないうちは、どの国が良いかを考えても答えが出ません。
- 長く居られる在留資格があるか — 年齢の下限、必要な預金額や収入額、働いてよいかどうか
- その条件を保ち続けられるか — 預金や保険は、滞在の間ずっと維持するよう求められることがあります
- 病院代を誰が払うか — 日本の公的医療保険は、海外で払った額をそのまま埋めてくれません
- 年金と税をどちらの国に納めるか — 社会保障協定があるかどうかで、二重払いになるかが変わります
- 子どもの学校があるか — 日本人学校のある国は限られます
- 住み始めたあとの手続き — 届出の頻度と、遅れたときの罰金
国を絞るのは、まず在留資格です
観光ビザで長く居ることはできません。長期滞在の枠は国ごとに決まっていて、年齢と金額で機械的に線が引かれています。ここで候補はかなり減ります。以下はタイと近隣国の公式サイトで確認した条件です(2026-08-31確認)。
タイで長く住むための3つの入口
ロングステイビザ(Non-Immigrant Visa "O-A")は、タイ外務省の案内によると、申請日時点で50歳以上が対象です。お金の条件は、80万バーツ以上の残高が分かる銀行取引明細、月65,000バーツ以上の収入証明、またはその合算で80万バーツ以上のいずれかです。滞在できるのは1年で、あらゆる就労が禁止と明記されています。ほかに、無犯罪証明書と、指定の疾病がないことを示す健康診断書(いずれも発行から3か月以内)、有効期間18か月以上の旅券が必要です。査証料は数次入国で5,000バーツです。
LTRビザ(Long-Term Resident Visa)は、タイ投資委員会(BOI)が運営する制度で、公式サイトは4つの区分を挙げています。年金生活者向けの区分は50歳以上で、年8万米ドル以上の不労所得(年金・賃料・実現した譲渡益・配当・利子など。給与は算入されません)が要ります。4万米ドル以上8万米ドル未満なら、25万米ドルの追加投資(残存5年以上のタイ国債、タイ登記会社への直接投資、タイの不動産のいずれか、または組み合わせ)が求められます。富裕層向けの区分は資産100万米ドル以上に加えてタイ国内へ50万米ドル以上の投資です。いずれの区分も、5万米ドル以上の医療保険、タイの社会保険の受給、または10万米ドル以上を12か月以上維持した銀行残高のどれかが必要です。最初に5年、条件を満たせばさらに5年の滞在が認められます。
LTRの公式サイトは、投資額・雇用の状態・口座残高・保険の付保を含め、すべての条件をビザの有効期間を通じて維持しなければならないと書いています。取ったあとも条件が続くという点が、他の枠と大きく違うところです。
タイランド・プリビレッジカードは会員制の長期滞在プログラムです。公式サイトの会員種別は、ブロンズが65万バーツで有効期間5年、ゴールドが90万バーツで5年、プラチナが150万バーツで10年、ダイヤモンドが250万バーツで15年、リザーブが500万バーツで20年です。1回の入国で何日滞在できるかは会員案内のページには書かれていないため、申し込む前に公式の窓口で確かめてください。
近隣の国と条件を並べてみる
フィリピンには退職庁(PRA)が運営するSRRV(Special Resident Retiree's Visa)があります。申請できるのは40歳以上で、預入額は年齢と年金の有無で変わります。50歳以上の年金受給者は15,000米ドル、年金がなければ30,000米ドル、40〜49歳は年金受給者で25,000米ドル、年金がなければ50,000米ドルです。年金受給者として申請するには、単身で月800米ドル以上、扶養家族がいる場合は月1,000米ドル以上の終身年金の証明が要ります。PRAの申請手数料は1,500米ドルです。
SRRVの特典として公式サイトが挙げているのは、フィリピンでの永住資格、数次入国と滞在期間の定めがないこと、入国管理局への年次報告と外国人登録証(ACR I-Card)の免除、出入国許可の免除、7,000米ドルまでの家財の一度限りの免税輸入、年金への課税の免除、旅行税の免除、就労や就学のための別のビザや許可が不要になることです。
| 制度 | 年齢 | お金の条件 | 滞在できる期間 | 就労 |
|---|---|---|---|---|
| タイ ロングステイビザ(O-A) | 50歳以上 | 80万バーツの預金、または月65,000バーツの収入 | 1年 | 禁止と明記 |
| タイ LTR(年金生活者の区分) | 50歳以上 | 年8万米ドルの不労所得。4万〜8万米ドルなら25万米ドルの投資を追加 | 5年+条件を満たせば5年 | 就労許可が特典に挙げられている |
| タイ LTR(富裕層の区分) | 公式ページに年齢の条件の記載なし | 資産100万米ドル+タイ国内へ50万米ドルの投資 | 5年+条件を満たせば5年 | 就労許可が特典に挙げられている |
| タイ プリビレッジカード | 公式ページに年齢の条件の記載なし | 会員料金65万〜500万バーツ | 会員資格は5〜20年 | 記載なし |
| フィリピン SRRV クラシック | 40歳以上 | 預入15,000〜50,000米ドル。年金受給者は月800米ドル以上の年金証明も | 期間の定めなし | 別の就労許可が不要と明記 |
この表はタイとフィリピンの公式サイトだけを並べたものです。他の国を候補に入れるなら、同じ列を、その国の政府の公式サイトで自分で埋めてください。仲介業者のまとめではなく、発給する側が書いた要件が唯一の正解です。
年齢が50歳を超えると、選べる制度が増えます
上の表を見ると分かるとおり、長期滞在の制度は50歳という線を引いていることが多くあります。タイのロングステイビザもLTRの年金生活者区分も50歳以上が対象で、フィリピンのSRRVは40歳から申請できますが、50歳を境に必要な預入額が下がります。
逆に、50歳より前に移り住むなら、退職者向けの枠は使えません。就労を伴う在留資格か、資産や投資で満たす区分を検討することになります。年齢で選択肢が変わるので、「いつ行くか」は「どこに行くか」と同じくらい効いてきます。
日本の年金はどうなるか
ここは国選びで見落とされやすいところです。厚生労働省の説明では、社会保障協定は「二重に保険料を支払うことを余儀なくされている」状態と、短期間の加入では「老齢年金の受給資格要件としての一定の加入年数を満たすことができない」という2つの問題を解決するためのものです。つまり保険料の二重払いを防ぎ、加入期間を通算するための取り決めです。
厚生労働省の「各国との社会保障協定及び関係法令」に発効済みとして載っているのは24か国です。アジアでは韓国、中国、インド、フィリピンが入っています。タイ、マレーシア、シンガポールは載っていません。協定がない国では、現地の年金制度に加入した場合の二重負担も、加入期間の通算も、この仕組みでは解決しません。
日本年金機構は、海外へ転出する人と海外に住んでいる人に向けて、国民年金への任意加入という手続きを案内しています。任意加入をしない場合、老齢基礎年金の額が減ることや、障害基礎年金の対象にならないことがあると説明されています。移住先を決める前に、自分がどちらを選ぶかを決めておいてください。
税金はどちらの国に納めるのか
国税庁の説明では、日本の所得税でいう居住者は「国内に住所を有する者」または「国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者」で、国内外で生じたすべての所得に課税されます。これに当たらない人が非居住者で、課税されるのは国内源泉所得だけです。移住して非居住者になると、課税の範囲そのものが変わります。
ただし、日本に不動産の賃貸収入などが残る場合は、非居住者になっても日本での申告が必要になります。国税庁は、非居住者について納税管理人を定めて所轄の税務署へ届け出るよう案内しています。納税管理人は個人でも法人でもよく、税務署からの書類を受け取る役割を担います。日本に資産を残したまま出る予定なら、出発前に決めておく項目です。
病院代は誰が払うのか
日本の公的医療保険には海外療養費という仕組みがありますが、支給されるのは日本国内の医療機関で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額から自己負担相当額を引いた額です(実際に海外で払った額のほうが低ければ、そちらの額になります)。全国健康保険協会は、海外と日本の医療体制の違いによって「支給金額が大幅に少なくなることがあります」と明記しています。
対象外になるものもはっきりしています。日本国内で保険診療として認められていない医療行為(美容整形やインプラントなど)と、治療を目的として海外へ渡航して受けた診療は支給されません。請求は、海外で治療費を払った日の翌日から2年で時効になります。
差額は自分でかぶることになるので、民間の医療保険で埋めるのが現実的です。金額の目安としては、タイのLTRビザが求める5万米ドル以上の医療保険という水準が参考になります。制度が保険の下限を決めている国では、その額がそのまま「この国で暮らすなら最低これくらい」という手がかりになります。
子どもの学校がある国は限られます
文部科学省によると、在外教育施設とは「海外に在留する日本人の子供のために、学校教育法に規定する学校における教育に準じた教育を実施することを主たる目的として海外に設置された教育施設」です。全日制の日本人学校は世界49か国・1地域に94校あり、約1万6千人が在学しています。土曜日や放課後に日本の教科書で学ぶ補習授業校は世界51か国・1地域に242校、私立在外教育施設は6校です(いずれも令和6年時点の公表値)。
裏を返すと、日本人学校が1校もない国のほうが多いということです。タイは文部科学省の一覧に日本人学校が2校載っています。学校側の公式サイトによると、泰日協会学校(バンコク日本人学校)と、泰日協会学校シラチャ校(シラチャ日本人学校)です。子どもを連れて移る前提なら、候補の国に学校があるかどうかで先に絞れます。
住み始めたあとに、毎年ついてくる手続き
移住は着いたら終わりではありません。国ごとに、住んでいる間ずっと続く届出があります。
日本側では、3か月以上海外に滞在する場合、旅券法第16条により在留届の提出が義務付けられています(外務省の在留届電子届出システムの案内より)。在留届は日本を出発する3か月前から出せます。
タイ側では、90日を超えて滞在する外国人に90日ごとの住所の届出が課されています。タイ入国管理局は根拠として入国管理法(仏暦2522年)第37条(5)を挙げています。届出は本人が窓口へ行くほか、代理人、書留郵便、オンライン(TM.47)でもできます。受付は期限の15日前から7日後までで、これを過ぎて出頭すると2,000バーツの罰金、逮捕された場合は5,000バーツと示されています。金額は公式ページによって書き方が違います。入国管理局の案内には「本人が出頭して2,000バーツ、逮捕された場合は5,000バーツ」と書かれている一方、タイ政府の行政手続案内には「2,000バーツ、届け出ないまま摘発された場合は4,000バーツ以上に加えて1日あたり200バーツ以内」と書かれています。入国管理法(仏暦2522年)第76条の上限は5,000バーツです。どれが自分に当たるかは窓口で確かめてください。このサイトの各ページは、それぞれが見た公式ページの数字をそのまま載せています。いったん出国して再入国すると、90日は最後の入国日から数え直しになります。
この手間は制度によって変わります。BOIの公式サイトによると、LTRビザでは90日ごとの報告が1年ごとの報告に緩和され、再入国許可も不要になります。フィリピンのSRRVでも入国管理局への年次報告が免除されます。年に4回の届出と年に1回の届出では、暮らしの負担がまるで違います。滞在制度を比べるときは、金額だけでなくこの列も見てください。
決める順番
ここまでの項目を順番に並べると、次のようになります。上から埋めていくと、候補は自然に絞られます。
- 在留資格が取れるか — 年齢と収入・資産で機械的に決まります。ここで落ちる国は候補から外れます
- 条件を毎年保てるか — 預金・保険・投資を維持し続けられるか。為替が動いても保てるか
- 病院代をどう埋めるか — 日本の公的保険では足りない前提で、民間保険の額を決めます
- 年金と税をどうするか — 社会保障協定の有無、国民年金の任意加入、納税管理人
- 家族の条件 — 学校があるか、配偶者や子どもに在留資格が出るか
- 住んだあとの手続き — 届出の頻度と、遅れたときの罰金
この順番で埋めていくと、「住みやすい国」という漠然とした問いが、「自分の年齢と資産で、どの国のどの制度に乗れるか」という、答えの出る問いに変わります。
タイに決めたあとで読むもの
タイを候補に残すなら、次に決めるのは住まいと暮らし方です。分譲コンドミニアムの購入は外国人にも道がありますが、条件があります。タイでコンドミニアムを買うときの決まりとお金にまとめています。家事や育児を人に頼む選択肢は日本より現実的で、その仕組みはタイでメイドを雇うときの決まりと給料で扱っています。
長く住むほど気になるのが、期限のある在留資格を毎年更新し続けるのかという点です。タイにも永住の制度はあります。要件と現実的な難しさはタイの永住権は誰が取れて、いくらかかるかで整理しました。住むこと・働くこと・ビザに関する記事は住む・働く・ビザの記事一覧から辿れます。
なお、ここに書いた金額と要件はすべて公式サイトで確かめたものですが、制度は変わります。申請の直前には、必ず発給する当局の公式ページで見直してください。
出典
- タイ外務省 公式「Non-Immigrant Visa "O-A" (Long Stay)」(年齢・預金額・収入額・査証料)(2026-08-31 取得)
- タイ投資委員会(BOI)Long-Term Resident Visa 公式サイト(4区分の要件・保険・滞在期間・1年報告)(2026-08-31 取得)
- Thailand Privilege Card 公式(会員種別の料金と有効期間)(2026-08-31 取得)
- タイ入国管理局 公式「90日を超える滞在の届出」(根拠条文・受付期間・罰金)(2026-08-31 取得)
- フィリピン退職庁(PRA)公式「SRRVisa」(預入額・年金要件・手数料・特典)(2026-08-31 取得)
- 厚生労働省「社会保障協定」(協定の目的=二重加入の防止と加入期間の通算)(2026-08-31 取得)
- 厚生労働省「各国との社会保障協定及び関係法令」(発効済みの国の一覧)(2026-08-31 取得)
- 日本年金機構「海外転出入・海外在住の皆さま」(国民年金の任意加入)(2026-08-31 取得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2010「納税義務者となる個人」(居住者・非居住者の区分と課税範囲)(2026-08-31 取得)
- 国税庁 タックスアンサー No.1923「海外勤務と納税管理人の選任・解任」(2026-08-31 取得)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「海外療養費」(支給額の計算基準・対象外・時効)(2026-08-31 取得)
- 外務省 たびレジ・在留届電子届出システム(旅券法第16条による在留届の義務)(2026-08-31 取得)
- 文部科学省「在外教育施設の概要」(日本人学校・補習授業校の定義と校数)(2026-08-31 取得)
- 文部科学省「認定した在外教育施設の一覧」(タイの日本人学校)(2026-08-31 取得)
- 泰日協会学校 公式サイト(バンコク日本人学校・シラチャ校)(2026-08-31 取得)
このページの内容は 2026-08-31 に確認しました。料金・制度・営業情報は変わることがあります。